弁護士平田智仁 仕事と雑感

大阪弁護士会所属の弁護士 会社訴訟(会社内紛争)や中小企業の法務など

「取締役の解任」と損害賠償のリスク

 会社内部の紛争で,相談を受ける機会が多いのが,「取締役の解任」を巡る問題です。

 

取締役を解任する方法

 

 会社法では,取締役については,いつでも株主総会の決議で解任することができるとされています(会社法339条1項)。また,解任の際の株主総会の決議要件は,原則として「普通決議」(※厳密には特則普通決議。会社法341条)で足りるので,出席株主の議決権の過半数で取締役を解任することが可能です(累積投票で選任された取締役は除く)。

 

 ちなみに,旧商法では,取締役の解任は「特別決議」が必要とされていましたので,現行の会社法では,取締役の解任の要件は緩和されたということができます

 

 このように取締役は,株主総会によって,出席株主の議決権の過半数の賛成があれば,いつでも,理由なしに,解任することは可能です。

 ただし,気を付けなければならないのは,「正当な理由」が無いのに取締役を解任した場合,会社は,取締役に対して解任によって生じた損害を賠償しなければならないという点です(会社法339条2項)。

 

取締役を解任する「正当な理由」って,なに?

 実際の紛争で,問題になりやすいのは,取締役解任の正当な理由の有無です。

 

法令違反・定款違反

 取締役の職務執行について,明確な法令違反や定款違反の事実が認められるケースであれば,基本的には解任の正当理由が肯定されるでしょう。

 

心身の故障

 心身の故障で,取締役の責務を全うできないようなケースについても,基本的には解任の正当理由が肯定されるとされています。

 

経営判断の失敗

 解任の「正当の理由」と認められるか否かが問題になりやすいのは,取締役の経営判断にミスや失敗があったケースです。

 そもそも,会社の経営を行う取締役は,日々,会社運営に関する決断と選択を迫られており,経営には常にリスクが伴うわけですが,そのような取締役の経営判断に失敗があった場合に,事後的な評価(ともすれば後付的な判断)で,解任の正当理由を認めてよいのか,という問題があります。

 この問題については否定説と肯定説の対立もあり,取締役の解任を進めようとする側は,事前にかなり慎重な検討と判断をする必要があります。

 

株主との関係悪化

 その他,問題となるのが,大株主と取締役との個人的な関係悪化や経営方針の違いといったケースや,大株主において単純に他の人物を取締役に選任したいと考えたり,他に取締役に適任と思われる人物が見つかった,という場合に,従前の取締役が解任されるというケースもあります。

 しかし,このような場合は,基本的には解任の正当理由は認められません。

 

「正当な理由」の立証責任は誰が負担するの?

 

 解任の正当な理由を基礎づける事情については,会社側が立証責任を負担すると考えられています。

 

損害賠償額って,いくら?

 解任に正当理由が認められない場合の損害賠償額についてです。

 損害賠償の範囲ですが,取締役が解任されなければ在任中及び任期終了時に得られた利益,と解されています。

 

残存任期の役員報酬

 

 任期までに得られるはずであった取締役報酬は損害の範囲に含まれると解されます。

 そのため,取締役の任期を長期にしている会社では,解任する場合は損害賠償額が高額になるリスクが高く,要注意ですね。

 ちなみに,特例有限会社の場合は,「任期の定めがない取締役」というのも存在するのですが,この場合にはどうなるのでしょうか。この場合,会社法339条2項ではなく,民法651条2項に基づき解任によって被った損害を請求できるとの見解もあるようですが,かなり具体的損害額の算定は難しそうですね。

 

役員退職慰労金

 退職慰労金についてですが,定款に退職慰労金の支給に関する具体的規定があれば,損害額の範囲に含まれると考えられています。

 定款に具体的に規定が無い場合は,原則として損害には含まれないことになります。ただし,過去に支給されてきた慣行があり,役員退職慰労金規程も整備されているという会社であれば,任期終了時に得られた利益として役員退職金相当額の損害賠償も肯定される場合もあります。

 

役員賞与

 役員賞与ですが,毎年,株主総会において,定額の賞与が支給する内容の決議が行われている会社であれば,賞与相当額の損害賠償も肯定される可能性が高まります。

 

 

 

このように,取締役の解任は,株主総会の普通決議によって簡単に実現できるのですが,会社は,解任後の損害賠償リスクをかなり慎重に検討する必要があります。