弁護士平田智仁 仕事と雑感

大阪弁護士会所属の弁護士 会社訴訟(会社内紛争)や中小企業の法務など

取締役会の開催とテレワーク

 昨今、新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務やテレワークを導入されている企業も多いところですが、今回は「取締役会」の開催とテレワークの方法に関して、概略ながら紹介させていただきます。

 

取締役の役割・取締役会の原則的な開催方法

 株式会社の取締役というのは、その個人的な能力や経験、信頼を前提として株主総会によって選任され、会社の経営を委任された人達です。

 そのため、取締役会では、各取締役が実際に会議に出席し、相互に意見を述べて意見交換や協議を重ねて会社の業務執行に関する意思決定を行うというのが、最も原則的な形態ということになります。

 なお、取締役は、上述のとおり個々人の能力等を信頼されて選任されているので、取締役が代理人を立てて取締役会に出席させることは認められていません。
 このように、各取締役が実際に会議に出席するのが原則的な形態ではありますが、必ず、全取締役が特定の場所に物理的に出席し、一堂に会して取締役会を開催しなければならないというわけではありません。 

 

テレビ会議方式での出席の場合

 まず、「テレビ会議」の場合ですが、各取締役の音声と映像が即時に他の取締役に伝達され、適宜的確な意見表明がお互いにできる仕組みが確保できておれば、テレビ会議を利用した取締役会議の開催も可能と考えられています。
 ポイントになるのは、「情報伝達の双方向性と即時性」が確保できており、取締役が、一堂に会して議論する場合と同等の環境が実現できている、ということです。

 

 電話会議での出席はOK?

 次に、「電話会議」の場合、すなわち音声の送受信により同時に通話ができるが、映像の伝達はできないシステムのケースです。
 電話会議では、映像がないため、会議中の各取締役のリアルタイムの反応や態度までは明確に確認できないため、はたして取締役が出席していると認めていいのか議論があるところです。
 このように議論はあるものの、電話会議についても、情報伝達の双方向性と即時性は確保でき、取締役全員の同意があれば、電話会議による方法での参加も出席と認めて差し支えない、との見解が有力です。

 

チャットでの出席はOK?

 その他、インターネットによる「チャット方式」での取締役会への出席ということも考えられます。
 これについては、「論点解説 新・会社法」(相澤哲、葉玉匡美、郡谷大輔 編著 商事法務)の【Q501】(362~363頁)において、情報伝達の双方向性および即時性が確保される等の一定の要件を満たす限りにおいて、チャット等の方式も取締役会への出席方法として認められる、旨が記載されています。
 なかなか思い切った解説のように感じますし、私自身は、まだチャット方式による取締役会への参加を採用している企業を直接見聞きしたことはありません。

 

完全にヴァーチャルな取締役会は可能?

 ちなみに、物理的な取締役会の開催場所を観念できない完全にヴァーチャルな取締役会では、取締役会が開催されたとは会社法上評価できない、とされています(弥永真生「コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則」第2版508頁)。
 もっとも、上記文献でも、「議長の所在する場所を取締役会が開催される場所として、取締役会を招集し、取締役等が所在する場所を通信回線でつないで、取締役会を開催することはできると思われる」と指摘されています。

 現行法では、やはり取締役会の「物理的な開催場所」の設定は不可欠ということになりますが、時代の変化に伴い、将来的には法改正などもあるかもしれませんね。

出席方法は取締役会議事録へ記載することが必須

 テレビ会議や電話会議での出席が行われた場合ですが、必ず取締役会議事録に「出席方法」まで記載しなければなりませんので、ご注意ください(会社法施行規則第101条第3項1号)。

 

 

以上、取締役会の開催とテレワークの方法に関して、簡単ではありますが概要を紹介させていただきました。
早く新型コロナウイルスも終息してほしいものです。