弁護士平田智仁 仕事と雑感

大阪弁護士会所属の弁護士 会社訴訟(会社内紛争)や中小企業の法務など

養育費等の新しい回収方法(勤務先不明の場合の対処)


 本日は養育費の回収に関するお話です。


 離婚といった家事事件も担当させていただきますが、問題になりやすいのが、養育費の「回収」です。
 これについては、民事執行法の改正により回収方法が強化されることになりました。なかでも、相手方(元配偶者)の勤務先を特定できる方法が新設された点が注目ポイントですので、簡単にご紹介します。

 

養育費の不払いと強制執行


 離婚した夫婦において、養育費の合意がなされている場合や、あるいは裁判で判決によって養育費の金額が決定された事案でも、養育費の不払いが生じることは残念ながら多いです。
 養育費の不払いがあった場合ですが、判決や裁判上の和解、調停、審判、公正証書(執行認諾文言付き)において養育費が決まっている事案であれば、強制執行の手続をとることができます。
 しかしながら、強制執行手続は決して万能な制度というわけでもありません。強制執行を行うためには、差押する財産に関する情報が必須です。

 例えば「不動産」であれば所在等、「預貯金」であれば原則として銀行名と支店名、「給料」であれば勤務先がわからなければ、そもそも差押を行うことができません。
こういった相手方財産の情報が確保できなければ、残念ながら、養育費を回収・確保できないケースも起こりえます。

 

民事執行法の改正と施行


 そのような中、令和2年4月1日に改正民事執行法が施行されました。
 改正内容はいろいろとあるのですが、養育費等の回収方法との関係では、やはり相手方(元配偶者)の勤務先を特定する方法が新設されたことが注目されます。

 

 勤務先の特定(給与債権に関する情報取得手続)

 従来、元配偶者が転職をするなどしてしまい、現在の就職先がわからないケースでは給料の差押えは困難でした。
しかし、今回の改正で新設された給与債権に関する情報取得手続を利用すれば、裁判所を通じて、市町村や日本年金機構等から、相手方の勤務先を特定するのに必要な情報を入手することが可能となりました。
 実際の手続では、①強制執行手続を利用したものの不奏功となった(回収できなかった)こと、②財産開示手続を利用したこと、といった要件を充足することが必要とはなりますが、こういった手順を踏めば、勤務先を特定できるようになったことは大きな進展です。
 なお、給与債権に関する情報取得手続は、

 ・養育費等の扶養義務等に係る請求権

 ・人の生命・身体の侵害にかかる損害賠償請求権

 を有する債権者にしか認められていない特別な制度となっています。

 そのため、貸金の返還や、取引による債権を回収するための強制執行の場合に、給与債権に関する情報取得手続を利用して債務者の勤務先の情報を取得することはできません。

 

 その他の改正

  その他、今回の改正では、「財産開示制度の罰則強化と申立者の範囲の拡大」「不動産に関する情報取得手続」「預貯金債権等に関する情報取得手続」といった制度の新設、拡充が行われています
※「不動産に関する情報取得手続」は、令和3年5月16日までに開始予定とされています。

 


以上、養育費等の新しい回収方法として、給与債権に関する情報取得手続について、概略ながら紹介させていただきました。