弁護士平田智仁 仕事と雑感

大阪弁護士会所属の弁護士 会社訴訟(会社内紛争)や中小企業の法務など

株主総会における不正の抑止と証拠の確保―株主総会「検査役」について

 今回は、株主総会検査役という制度に関するお話です。
 会社内で経営権・支配権を巡って取締役や株主間で対立が生じている事案では、株主総会の招集手続や決議方法について不正が行われるのではないか、あるいは株主総会が紛糾するのではないか、といった疑念や不安が生じることがあります。

 こういった事案の相談を受けた場合、弁護士が検討する手段の一つが「株主総会検査役の選任」です。
 そんな株主総会検査役の概要をご紹介します。

株主総会検査役の制度の趣旨・機能

 株主総会検査役は、裁判所から選任され、株主総会の招集手続及び決議方法を調査し、その結果を報告書等にまとめて裁判所へと提出するという業務を担当します。
株主総会の招集手続や決議方法について疑義や争いが生じた場合、後日、株主総会決議取消訴訟などの訴訟が提起され決議の有効性が裁判で争われることがあるのですが、あらかじめ、株主総会に先立ち、株主総会検査役の選任の手続をとっておくことで、株主総会決議に関する紛争を未然に抑止し、また、後日の訴訟における証拠確保として機能するわけです。

 

誰が申立をするのか?

 株主総会検査役の選任の申立を行えるのは、「株主」(※一定の要件があります)と「会社」です。
 一般的には、株主側が、株主総会で不正等が行われる可能性があると判断して総会検査役の選任を求めるというケースが多いと思いますが、近年では、紛糾の予想される株主総会の公正さを担保するために会社側が申立をするケースも増えているそうです。

 

誰が株主総会検査役に選ばれる?

 株主総会検査役の候補者ですが、裁判所が、会社の規模や株主数、事案の内容を考慮し、会社関連訴訟等の経験を有する弁護士のなかから適任者を選定するようです。
 ちなみに、申立人側が、株主総会検査役に適任と考える弁護士を指名して推薦するということもあります。しかし、裁判所が推薦された弁護士をそのまま選任するということはまず無いようです。やはり、株主総会検査役の職務の公正さに疑義が生じてしまっては制度の意味がありませんので当然と言えば当然ですね。

 

株主総会検査役の仕事は?

 株主総会検査役の職務ですが、上述のとおり、株主総会の招集手続及び決議方法を調査し、その結果を報告書等にまとめて裁判所へと提出する、というものです。この「検査報告書」の作成が、株主総会検査役の一番の仕事ということになります。
 株主総会検査役は、基本的には株主総会の場で何か口を出すということはありません。総会の場で、仮に、議長や株主から調査結果や判断について質問されたとしても、回答義務はないと解されています。
 また、検査報告書では、実際の株主総会で行われた決議や進行等を事実に基づいて記録することが求められているのであって、株主総会検査役の評価や意見の記載は要求されていません。そのため、株主総会検査役が、招集手続や決議方法の有効性といった法的な評価を、検査報告書に記載するわけではありません。あくまでも事実を明確にして記録するということが求められているわけです。
 作成された調査報告書は、後日、株主総会決議取消訴訟等の裁判において、重要な証拠となります。

 

どれくらいの「予納金」が必要?

 株主総会検査役の選任ですが、申立人は、裁判所に対して「予納金」を納めなければなりません。この予納金というのは、株主総会検査役の報酬や費用の見込額を、あらかじめ申立人に予納させるものです。
 予納金の金額は、会社の規模や、株主総会に要する見込み時間、補助者の有無や人数などが考慮されるほか、業者によるビデオ撮影の有無などを踏まえて裁判所が決定するとされています。
 実際の予納金の金額ですが、小規模な同族会社の事案でも70万円程度、上場企業のケースでは500万円といった事案もあるようです。予納金の金額等は、「実務ガイド 新・会社非訟 会社非訟事件の実務と展望【増補改訂版】」の177頁に具体例が記載されており、非常に参考になります。
 なお、株主総会検査役の報酬は、会社が負担することになっているのですが(会社法306条4項)、実際は、申立人が予納した予納金から株主総会検査役の報酬が支出され、その後、申立人が会社に対し求償することになるのが一般的です。

 

 

以上、株主総会検査役について簡単ですがご紹介いたしました。

 冒頭でも述べたように、会社内で経営権・支配権を巡って取締役や株主間で対立が生じている事案で、株主総会検査役の選任を検討することが結構あるのですが、やはり株主側で申立を検討する場合、けっこう高額な「予納金」を準備しなければならないことがネックになることは多いです。最終的には会社に求償できるとはいっても、いったんは高額な資金を準備する必要がありますし、回収までに相応の時間も要します。

 

 また株主総会検査役の制度は、なぜか「特例有限会社」では、規定がないため使用できません。特例有限会社は小規模な同族会社が圧倒的に多く、経営権を巡って社内で取締役や株主間で対立が生じやすいですし、実際に株主総会検査役の選任が必要とするニーズが多いように思うので、このへんは立法の不備のように感じています。