弁護士平田智仁 仕事と雑感

大阪弁護士会所属の弁護士 会社訴訟(会社内紛争)や中小企業の法務など

株主権の帰属を巡る紛争・裁判(株主権確認訴訟)

 

 株主権の帰属をめぐる紛争(株主権確認訴訟)

  世の中の会社では,会社の経営権・支配権をめぐる内部的な紛争が生じることがあります。

 そういった紛争のなかで非常に多いのが,会社の株主権の帰属を巡る紛争(株主権確認訴訟)です。簡単に言うと,「誰が会社の株主なのか?」「誰が何株の株式を保有しているのか?」ということが争点となる事件です。家族間・親族間で紛争になるというケースが多いです。

 株主権確認訴訟での「証拠」

 株主権確認訴訟で,書証(証拠)とされることが多いのは,

 ・株券

 ・株主名簿

 ・原始定款

 ・株式申込書,出資引受証書

 ・法人税申告書の「同族会社の判定明細書」

 ・株主リスト(※平成28年10月1日以降の株式会社等の登記申請に当たり,添付書面として要求される書類)

 などです。

 しかし,日本の中小企業の場合,そもそも「株券」が発行されていなかったり,また,「株主名簿」が整備されていない(あるいは記載が不十分)という会社も多いです。

 そのため,実際の紛争では,株主権を確定するための客観的な証拠が少なく,事実認定が困難な事案が多いです。

また,上記の各書類に株主として記載されている者がいても,「名義株」であって実質的な株主ではない,とする主張がなされることも多いです。

 平成2年以前は要注意

  平成2年以前に設立された会社の場合には,独特の問題も生じます。

 平成2年商法改正以前は,株式会社の場合,会社設立のための発起人として「7人」の人間が要求されていました。そのため,発起人として名義貸しが行われることもあり,名義株であることが十分にあり得ます。

 また,旧・有限会社の場合はもう少し特殊です。平成2年改正前の旧有限会社法では,解散事由として「社員ガ一人ト為リタルコト」との規定が存在したことから(有限会社法69条1項5号),社員一名での会社設立と存続が認められていませんでした(2名以上の社員が必要)。そのため,旧・有限会社の場合も,名義貸しが行われることがあり得るのです。

 「名義株」の主張

  裁判で「名義株」が主張された場合ですが,裁判所は,名義だけで形式的に判断するのではなく,実質的に株主が誰であるかを判断します(最判昭和42年11月17日)。

 そして,実質的な株主の認定については,株式取得資金の拠出者,名義貸与者と名義借用者との関係及びその間の合意の内容,株式取得の目的,取得後の利益配当金や新株等の帰属状況,名義貸与者及び名義借用者と会社との関係,名義借りの理由の合理性,株主総会における議決権の行使状況などを総合的に判断すべき,とされています(東京地裁昭和57年3月30日判決)。

 

 このように,実質的な株主の認定は,上記の各事情の「総合的な判断」になるのですが,なかなかこの判断が困難な事案も多く,どうしても紛争が熾烈化,長期化しやすい傾向があります。

 

 でも,私自身は,この種の裁判はけっこう好きです。会社の過去の資料をいろいろ収集,確認しながら,主張を組み立てる作業は楽しかったりもします。