弁護士平田智仁 仕事と雑感

大阪弁護士会所属の弁護士 会社訴訟(会社内紛争)や中小企業の法務など

会社は破産しても、経営者個人は破産を回避する手段-経営者保証ガイドライン-

 

  今回は、経営者保証ガイドラインに関する記事です

 

会社経営者の保証

 会社が事業のために金融機関から借入を行う場合ですが、経営者個人も、その借入について(連帯)保証させられるということが、これまではごく普通に行われてきました。そして、その保証額は、個人では一生かけても返済困難というレベルの金額であるケースが多いです。

 そのため、会社の経営が行き詰まり、会社が破産を選択せざるをえなくなった場合、連帯保証をしている経営者個人も同時に破産せざるを得なくなるというのが実情でした。そして、多くの経営者にとって自己破産という結末は大変重たいものであり、その後の再スタートの場面においても暗い影響を与えるものであったと思います。

 

経営者保証ガイドライン

 この問題を解消する選択肢として、「経営者保証ガイドライン」があります。

 これは保証人の責任を合理的な範囲に抑えるためのルールであり、2014年2月1日から運用が開始された制度です。法律ではありませんが、経営者と金融機関におけるいわば共通ルールとして機能します。

 なお、中小企業庁のHP(※1)では、経営者保証に関するガイドラインの概要として、

⑴ 法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと

⑵ 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて約100~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること

⑶ 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること

 

というように紹介されています。

 

メリット

 経営者保証ガイドラインの最大のメリットは、経営者個人の破産を回避できる点といえます。

 また、破産と比較したメリットとして、

 ① 破産の場合は自由財産等として原則99万円以内の範囲しか残せませんが、経営者保証ガイドラインの場合はインセンティブ資産として経済的合理性が認められる範囲で、自由財産を超える資産を残すことができる点

 ② 自宅の処理について、破産の場合と比較すると、経営者保証ガイドラインの方が、自宅を残して居住を継続するためにとりうる方法が増える点

 ③ 経営者保証ガイドラインの利用の場合、破産と違って、信用情報登録機関へ事故情報が登録されず、また官報にも掲載されない点

  などが主なメリットとして挙げられます。

 特に最近は急速にキャッシュレス化が進んでおり、クレジットカード等が利用できなくなると日常生活の多くの場面で支障が生じますので、上記③のメリットはけっこう重要ですね。

 

 実際のところ経営者保証ガイドラインって使えるの?

 経営者保証ガイドラインの利用は、メリットも多く、一見すると魅力的な制度です。

 しかし、保証債務以外の経営者の個人的借入などは対象とされていないという問題や、利用要件の点をクリアしなければなりません。

 また、対象債権者全員の同意がなければ成立しないため、予測が立ちにくく、時間と費用を要しても結局は成立できず、結果的には、最初から破産手続を選択しておけばよかった、という事態も起こりえます。

 そもそも、経営者保証ガイドラインの利用に適さない案件も多くありますし、利用要件を充たしそうでも、確実性や迅速性を優先して破産手続を選択するケースもあります。

 実際のところ、会社が破産する場合に、経営者個人について経営者保証ガイドラインを利用するケースはまだまだ少数という印象です。

 

 

 

 以上、経営者保証ガイドラインについて、簡単にですがご紹介させていただきました。

 依頼者である経営者にとっても、また担当する弁護士にとっても、経営者保証ガイドラインの利用は簡単な手続とは言えませんが、「経営者個人の破産を回避する」という成果は大変価値のあることだと思いますし、積極的に選択すべき手続だと感じています。

 

(補足)弁護士への相談のタイミングって?

  弁護士として法律相談を担当していると、頻繁に「もう少し早めに相談してくれれば・・」と感じる案件にも遭遇します。

 破産関係の相談は特にそうですが、早い段階で相談いただいた方が、検討できる手段や選択肢も増え、結果的に相談者にとって利益となる可能性が高まります。弁護士にとっても「相談のタイミングが早すぎて困る」ということは、基本的にはありません。

 

※1(https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/

取締役会の招集通知の方法 ~「電子メール」での招集通知はOK?

 

取締役会の招集通知

 今回は「取締役会の招集通知」に関する話題です。

 

 会社法では、取締役会を招集するには、会日から一週間前に各取締役に対して招集通知を発しなければならない、とされています(会社法368条1項)。

 なお、「一週間」という期間は定款で短縮することができるため、多くの会社は定款でその期間を短縮しています。

 「通知」の方法・手段については会社法に定めはなく、「書面」でなければならないとはされていません。そのため、「口頭」による招集通知も可能とされています。

 また、「電子メール」を利用して招集通知を行っている会社も多いと思います。

 

電子メールによる取締役会の招集通知

 電子メールによる取締役会の招集通知ですが、少し気を付ける点があります。

 電子メールによる招集通知につき、招集通知がなされていないと判断された裁判例があります(東京地裁平成29年4月13日判決 金融・商事判例1535号56頁)。

 この裁判例の事案では、会社が割り当てたメールアドレスが取締役に付与されており、そのアドレス宛に取締役会の招集通知がなされました。

 しかし、問題となった取締役は、自らパソコンを使用することはなく、そのパソコンも会社の秘書室で管理されており、勤務当時にもこれまで当該アドレスに電子メールが送信されたことはなく、秘書室でもメールの受信状況を確認していなかった、という事情が存在する事案でした。

 さらに、その招集通知メールというのも、午前9時30分開催予定の取締役会につき、その前日の深夜(午後11時23分)に送信されたという事案でもありました。

 これらの事情から、裁判では、当該取締役に対し、招集通知がなされたとはいえない、と判断されています。

 このように、この裁判例は、かなり特殊な事例における判断だといえます。

 基本的には、会社が業務のために割り当てたアドレスなど、取締役が日常的に業務等で使用するメールアドレスに招集通知を送信すれば、会社法上も取締役会の招集通知がなされたものと考えて差し支えないでしょう。あくまでも、例外的に、普段からパソコンや電子メールを利用されない取締役については、電子メール以外の方法を選択すべき、ということですね。

 

 以上、電子メールによる取締役会の招集通知についてでした。

 ちなみに、上記裁判例は、「招集通知はなされていない」との判断をしていますが、結論として、「取締役会決議は有効」と判断しています。招集手続に法令違反はあったものの、当該取締役が、仮に取締役会に出席していたとしても、決議の結果に影響がなかったと認められる特段の事情があったと判断されています。この点でも、なかなか興味深く、勉強になる事例だと思います。

少年事件と特殊詐欺(振り込め詐欺・オレオレ詐欺)

 少年事件というと、「凶悪化」など悪いイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、弁護士として、弁護人・付添人活動を通じて少年の更生に少しでも助力できるよう意識しています。

 今回は、少年事件と特殊詐欺についてです。

 

特殊詐欺(振り込め詐欺・オレオレ詐欺など)

 「特殊詐欺」というのは、いわゆる振り込め詐欺・オレオレ詐欺など、不特定多数の方を狙う類型の詐欺です。警視庁のHPでは、詐欺犯人が電話やハガキ(封書)等で親族や公共機関の職員等を名乗って被害者を信じ込ませ、現金やキャッシュカードをだまし取ったり、医療費の還付金が受け取れるなどと言ってATMを操作させ、犯人の口座に送金させる犯罪(現金等を脅し取る恐喝や隙を見てキャッシュカード等をすり替えて盗み取る詐欺盗(窃盗)を含む。)というように定義されています。

 警察や金融機関等が、何年にもわたって被害防止のための注意等を呼び掛けていますが、なかなか被害者が後を絶たない犯罪類型ですね。

 私も、少年事件として、これまでも何度も特殊詐欺に関与した少年を担当してきました。

 

特殊詐欺への少年の参加・関与

 特殊詐欺の特徴として、組織化・分業化が進んでいることが挙げられます。犯行自体を計画・立案する者のほか、被害者に電話をかけて欺罔行為を行う「架け子」、被害者から金銭を受け取る「受け子」、ATMから現金を引き出す「出し子」、受け子や出し子となる人員を紹介・手配する「リクルーター」、受け子や出し子に指示を行う「指示役」、その他、犯行に使用する携帯電話や銀行口座を手配する「道具屋」など、各種の役割を担う多数の人物で構成されることが一般的です。

 なお、それぞれの参加者は、他の参加者とは面識もなく、顔や氏名といった個人情報などは全く把握していないことが通常です。

 そして、少年の場合、「受け子」や「出し子」として犯行に参加するケースが多いです。

 「受け子」は、被害者と直接接触するため、被害者の目の前に姿をさらすというリスクがありますし、また詐欺が事前に露見していた場合は警察官に現場で逮捕されるというリスクがあります。また、「出し子」は、ATM等の防犯カメラに姿を録画されるというリスクがあります。

 このように、少年は、犯行全体の中で、一番高いリスクを伴う「受け子」や「出し子」の役割を担当しているケースが多いです。

 また、少年に対して、分け前や報酬の約束等がなされていることが多いですが、実際には支払われなかったり、報酬が支払われても実際の被害金額との対比でいえば少額であることが殆どであり、被害金額の大部分は顔も名前も把握していない「上の人」「黒幕」にわたっているというのが実態です。

 

 もちろん、特殊詐欺に関与した少年は非難されるべきです。

 ただ、計画者や黒幕が、少年の思慮の浅はかさや未熟さに乗じて、安い報酬でリスクの高い役割を押し付け、良い様に利用して使い捨てにするケースが多く、いわば少年が搾取されているようにも感じます。

 

重い処分

 少年が、「受け子」や「出し子」として特殊詐欺に関与した場合ですが、特殊詐欺被害が日本全体で莫大な金額に上っており社会問題化しているという背景もあり、少年審判でも、重い処分を受けることが多いです。

 もちろん、少年審判の結論は、被害額の大小、役割や関与の程度、過去の非行歴の有無や程度、生育環境や家庭環境、被害弁償の有無、反省の有無、就業先・勤務先の確保の有無などの総合判断によって処分が決まるわけですが、やはり、率直にいって、「少年院送致」という処遇になるケースは多いです。

 

 

 以上、少年事件と特殊詐欺についてでした。

 昨今は、知人から誘われるだけではなく、SNSなどで見知らぬ相手から「受け子」や「出し子」の勧誘を受け、それこそアルバイト感覚で引き受けてしまうという少年も見受けられます。しかし、その先には、とてつもない重大なリスク・不利益が待ち受けているという実態について、未成年者にも、もっと浸透してほしいところです。

 

 

問い合わせ先と自己紹介

 

大阪弁護士会所属の弁護士の平田智仁と申します。

 2009年の弁護士登録以来、特に、「会社の内部紛争」(役員間や株主間の紛争)といった会社訴訟案件と「証券会社の法務対応」といった分野が好きで、重点的に取り扱ってきました。

 ブログは個人的な備忘録や知識の整理も兼ねてますが、有益な情報もお伝えできれば、と思っています。

 

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株主総会における不正の抑止と証拠の確保―株主総会「検査役」について

 今回は、株主総会検査役という制度に関するお話です。
 会社内で経営権・支配権を巡って取締役や株主間で対立が生じている事案では、株主総会の招集手続や決議方法について不正が行われるのではないか、あるいは株主総会が紛糾するのではないか、といった疑念や不安が生じることがあります。

 こういった事案の相談を受けた場合、弁護士が検討する手段の一つが「株主総会検査役の選任」です。
 そんな株主総会検査役の概要をご紹介します。

株主総会検査役の制度の趣旨・機能

 株主総会検査役は、裁判所から選任され、株主総会の招集手続及び決議方法を調査し、その結果を報告書等にまとめて裁判所へと提出するという業務を担当します。
株主総会の招集手続や決議方法について疑義や争いが生じた場合、後日、株主総会決議取消訴訟などの訴訟が提起され決議の有効性が裁判で争われることがあるのですが、あらかじめ、株主総会に先立ち、株主総会検査役の選任の手続をとっておくことで、株主総会決議に関する紛争を未然に抑止し、また、後日の訴訟における証拠確保として機能するわけです。

 

誰が申立をするのか?

 株主総会検査役の選任の申立を行えるのは、「株主」(※一定の要件があります)と「会社」です。
 一般的には、株主側が、株主総会で不正等が行われる可能性があると判断して総会検査役の選任を求めるというケースが多いと思いますが、近年では、紛糾の予想される株主総会の公正さを担保するために会社側が申立をするケースも増えているそうです。

 

誰が株主総会検査役に選ばれる?

 株主総会検査役の候補者ですが、裁判所が、会社の規模や株主数、事案の内容を考慮し、会社関連訴訟等の経験を有する弁護士のなかから適任者を選定するようです。
 ちなみに、申立人側が、株主総会検査役に適任と考える弁護士を指名して推薦するということもあります。しかし、裁判所が推薦された弁護士をそのまま選任するということはまず無いようです。やはり、株主総会検査役の職務の公正さに疑義が生じてしまっては制度の意味がありませんので当然と言えば当然ですね。

 

株主総会検査役の仕事は?

 株主総会検査役の職務ですが、上述のとおり、株主総会の招集手続及び決議方法を調査し、その結果を報告書等にまとめて裁判所へと提出する、というものです。この「検査報告書」の作成が、株主総会検査役の一番の仕事ということになります。
 株主総会検査役は、基本的には株主総会の場で何か口を出すということはありません。総会の場で、仮に、議長や株主から調査結果や判断について質問されたとしても、回答義務はないと解されています。
 また、検査報告書では、実際の株主総会で行われた決議や進行等を事実に基づいて記録することが求められているのであって、株主総会検査役の評価や意見の記載は要求されていません。そのため、株主総会検査役が、招集手続や決議方法の有効性といった法的な評価を、検査報告書に記載するわけではありません。あくまでも事実を明確にして記録するということが求められているわけです。
 作成された調査報告書は、後日、株主総会決議取消訴訟等の裁判において、重要な証拠となります。

 

どれくらいの「予納金」が必要?

 株主総会検査役の選任ですが、申立人は、裁判所に対して「予納金」を納めなければなりません。この予納金というのは、株主総会検査役の報酬や費用の見込額を、あらかじめ申立人に予納させるものです。
 予納金の金額は、会社の規模や、株主総会に要する見込み時間、補助者の有無や人数などが考慮されるほか、業者によるビデオ撮影の有無などを踏まえて裁判所が決定するとされています。
 実際の予納金の金額ですが、小規模な同族会社の事案でも70万円程度、上場企業のケースでは500万円といった事案もあるようです。予納金の金額等は、「実務ガイド 新・会社非訟 会社非訟事件の実務と展望【増補改訂版】」の177頁に具体例が記載されており、非常に参考になります。
 なお、株主総会検査役の報酬は、会社が負担することになっているのですが(会社法306条4項)、実際は、申立人が予納した予納金から株主総会検査役の報酬が支出され、その後、申立人が会社に対し求償することになるのが一般的です。

 

 

以上、株主総会検査役について簡単ですがご紹介いたしました。

 冒頭でも述べたように、会社内で経営権・支配権を巡って取締役や株主間で対立が生じている事案で、株主総会検査役の選任を検討することが結構あるのですが、やはり株主側で申立を検討する場合、けっこう高額な「予納金」を準備しなければならないことがネックになることは多いです。最終的には会社に求償できるとはいっても、いったんは高額な資金を準備する必要がありますし、回収までに相応の時間も要します。

 

 また株主総会検査役の制度は、なぜか「特例有限会社」では、規定がないため使用できません。特例有限会社は小規模な同族会社が圧倒的に多く、経営権を巡って社内で取締役や株主間で対立が生じやすいですし、実際に株主総会検査役の選任が必要とするニーズが多いように思うので、このへんは立法の不備のように感じています。

養育費等の新しい回収方法(勤務先不明の場合の対処)


 本日は養育費の回収に関するお話です。


 離婚といった家事事件も担当させていただきますが、問題になりやすいのが、養育費の「回収」です。
 これについては、民事執行法の改正により回収方法が強化されることになりました。なかでも、相手方(元配偶者)の勤務先を特定できる方法が新設された点が注目ポイントですので、簡単にご紹介します。

 

養育費の不払いと強制執行


 離婚した夫婦において、養育費の合意がなされている場合や、あるいは裁判で判決によって養育費の金額が決定された事案でも、養育費の不払いが生じることは残念ながら多いです。
 養育費の不払いがあった場合ですが、判決や裁判上の和解、調停、審判、公正証書(執行認諾文言付き)において養育費が決まっている事案であれば、強制執行の手続をとることができます。
 しかしながら、強制執行手続は決して万能な制度というわけでもありません。強制執行を行うためには、差押する財産に関する情報が必須です。

 例えば「不動産」であれば所在等、「預貯金」であれば原則として銀行名と支店名、「給料」であれば勤務先がわからなければ、そもそも差押を行うことができません。
こういった相手方財産の情報が確保できなければ、残念ながら、養育費を回収・確保できないケースも起こりえます。

 

民事執行法の改正と施行


 そのような中、令和2年4月1日に改正民事執行法が施行されました。
 改正内容はいろいろとあるのですが、養育費等の回収方法との関係では、やはり相手方(元配偶者)の勤務先を特定する方法が新設されたことが注目されます。

 

 勤務先の特定(給与債権に関する情報取得手続)

 従来、元配偶者が転職をするなどしてしまい、現在の就職先がわからないケースでは給料の差押えは困難でした。
しかし、今回の改正で新設された給与債権に関する情報取得手続を利用すれば、裁判所を通じて、市町村や日本年金機構等から、相手方の勤務先を特定するのに必要な情報を入手することが可能となりました。
 実際の手続では、①強制執行手続を利用したものの不奏功となった(回収できなかった)こと、②財産開示手続を利用したこと、といった要件を充足することが必要とはなりますが、こういった手順を踏めば、勤務先を特定できるようになったことは大きな進展です。
 なお、給与債権に関する情報取得手続は、

 ・養育費等の扶養義務等に係る請求権

 ・人の生命・身体の侵害にかかる損害賠償請求権

 を有する債権者にしか認められていない特別な制度となっています。

 そのため、貸金の返還や、取引による債権を回収するための強制執行の場合に、給与債権に関する情報取得手続を利用して債務者の勤務先の情報を取得することはできません。

 

 その他の改正

  その他、今回の改正では、「財産開示制度の罰則強化と申立者の範囲の拡大」「不動産に関する情報取得手続」「預貯金債権等に関する情報取得手続」といった制度の新設、拡充が行われています
※「不動産に関する情報取得手続」は、令和3年5月16日までに開始予定とされています。

 


以上、養育費等の新しい回収方法として、給与債権に関する情報取得手続について、概略ながら紹介させていただきました。

取締役会の開催とテレワーク

 昨今、新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務やテレワークを導入されている企業も多いところですが、今回は「取締役会」の開催とテレワークの方法に関して、概略ながら紹介させていただきます。

 

取締役の役割・取締役会の原則的な開催方法

 株式会社の取締役というのは、その個人的な能力や経験、信頼を前提として株主総会によって選任され、会社の経営を委任された人達です。

 そのため、取締役会では、各取締役が実際に会議に出席し、相互に意見を述べて意見交換や協議を重ねて会社の業務執行に関する意思決定を行うというのが、最も原則的な形態ということになります。

 なお、取締役は、上述のとおり個々人の能力等を信頼されて選任されているので、取締役が代理人を立てて取締役会に出席させることは認められていません。
 このように、各取締役が実際に会議に出席するのが原則的な形態ではありますが、必ず、全取締役が特定の場所に物理的に出席し、一堂に会して取締役会を開催しなければならないというわけではありません。 

 

テレビ会議方式での出席の場合

 まず、「テレビ会議」の場合ですが、各取締役の音声と映像が即時に他の取締役に伝達され、適宜的確な意見表明がお互いにできる仕組みが確保できておれば、テレビ会議を利用した取締役会議の開催も可能と考えられています。
 ポイントになるのは、「情報伝達の双方向性と即時性」が確保できており、取締役が、一堂に会して議論する場合と同等の環境が実現できている、ということです。

 

 電話会議での出席はOK?

 次に、「電話会議」の場合、すなわち音声の送受信により同時に通話ができるが、映像の伝達はできないシステムのケースです。
 電話会議では、映像がないため、会議中の各取締役のリアルタイムの反応や態度までは明確に確認できないため、はたして取締役が出席していると認めていいのか議論があるところです。
 このように議論はあるものの、電話会議についても、情報伝達の双方向性と即時性は確保でき、取締役全員の同意があれば、電話会議による方法での参加も出席と認めて差し支えない、との見解が有力です。

 

チャットでの出席はOK?

 その他、インターネットによる「チャット方式」での取締役会への出席ということも考えられます。
 これについては、「論点解説 新・会社法」(相澤哲、葉玉匡美、郡谷大輔 編著 商事法務)の【Q501】(362~363頁)において、情報伝達の双方向性および即時性が確保される等の一定の要件を満たす限りにおいて、チャット等の方式も取締役会への出席方法として認められる、旨が記載されています。
 なかなか思い切った解説のように感じますし、私自身は、まだチャット方式による取締役会への参加を採用している企業を直接見聞きしたことはありません。

 

完全にヴァーチャルな取締役会は可能?

 ちなみに、物理的な取締役会の開催場所を観念できない完全にヴァーチャルな取締役会では、取締役会が開催されたとは会社法上評価できない、とされています(弥永真生「コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則」第2版508頁)。
 もっとも、上記文献でも、「議長の所在する場所を取締役会が開催される場所として、取締役会を招集し、取締役等が所在する場所を通信回線でつないで、取締役会を開催することはできると思われる」と指摘されています。

 現行法では、やはり取締役会の「物理的な開催場所」の設定は不可欠ということになりますが、時代の変化に伴い、将来的には法改正などもあるかもしれませんね。

出席方法は取締役会議事録へ記載することが必須

 テレビ会議や電話会議での出席が行われた場合ですが、必ず取締役会議事録に「出席方法」まで記載しなければなりませんので、ご注意ください(会社法施行規則第101条第3項1号)。

 

 

以上、取締役会の開催とテレワークの方法に関して、簡単ではありますが概要を紹介させていただきました。
早く新型コロナウイルスも終息してほしいものです。